第一回「はじまればおわる」
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- 今回は「やもり」のお二人に自由に喋っていただきたいと思っております。
- やもり
- は〜い。
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- 早速ですが、矢野さんが最近某TVCMの中で「始まれば終わる」という表現を森山さんから紹介されたと話されておりますが。
- 矢野
- ええ。
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- この言葉を対談のスタートにできないかなと。実はCM放送直後から一般の方のブログなどで、この言葉に助けられていますという書き込みが多くみられるんです。
- やもり
- へぇ〜。
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- ある会社員の男性は「緊張する結婚式のスピーチを「始まれば終わる」で乗り切れました」とおっしゃっていたり、「うちは社長の話が長いので」という書き込みもありました。不妊治療中の女性がこの言葉に励まされたとか、また「足の汚いお客さんの時に心の中でつぶやくようにしています」という女性マッサージ師の方などもおられました。
- やもり
- (笑)。
- 矢野
- いったいどこから出たのあの言葉?
- 森山
- なんかステージでもすごい緊張して怖い時ってあるじゃない。時々なにかをやりはじめて途方もなく先が遠いように感じること。でもやりはじめたら絶対に終わるなって思っていると終わりにめがけて、エネルギーも終わりまで見通せるっていうか。これ一生続くわけじゃない、始まったら終わるしって。
- 矢野
- うーん。なるほど。
- 森山
- まっ、なんかなげやりですよね(笑)。始まったんだから終わるに決まってるんだから大丈夫よぉ〜みたいな。
- 矢野
- なんとも言えないのよね。積極的なんだか消極的なんだかわからない言葉だから。だけど、どちらでもない…日常?
- 森山
- うん。
- 矢野
- 日常ってそういうことだなって。だって始まって終わるっていうさ、事実をそのまま述べているだけじゃない? 始まれば終わるんだから頑張ろうとは言ってないの誰も(笑)。でもこういうブログに書いている人たちはそれを起爆剤にして、もっと言えばこんな当たり前のことなのにそれが起爆剤になれるっていう。不思議な力があって。
- 森山
- なんだかこうおまじないみたいな感じで楽になれるんですよね。
- やもり
- うんうん。
- 森山
- ちょっと嫌なことがあってでもやらなければいけない時、始まれば終わるって思えばやれちゃうっていう。
- 矢野
- 私はもっぱら来日した時のスケジュールですね。
(一同爆笑)
- 矢野
- だいたい分厚い束を渡されて。
- 森山
- わかるわかる〜!
- 矢野
- 始まれば終わるって。
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- 年々お忙しくなってこられているとか?
- 矢野
- そうですね。でも逆に考えると始まんないと終わらない!
- 森山
- そうそう。
- 矢野
- 積極的な面を考えるならば「始まれば」より「始めれば」ですね。
- 森山
- 始めるのも自分の意思ですし。
- 矢野
- そういうことですね。
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- この言葉、森山さんはいつ頃から大切にされてこられたんですか?
- 森山
- ステージに立つのが怖いなっていつも思うわけじゃなくてね。自分にとってはわりとこう負荷の多い仕事とか。
- 矢野
- ゲストがいる時とかね。
- 森山
- そうそう。
- 矢野
- 段取りもいっぱいあったりすると。
- 森山
- ちゃんといい感じで週末を迎えるために、自分がどうしていってこうやってって考え込んじゃって…う〜ん始まれば終わる! みたいな。なんかそれで乗り越えられるというか。
- 矢野
- 私の場合はあまり考えてやってないからねぇ〜。
- 森山
- 考えてないねぇ(笑)。
- 矢野
- 考えてないでしょう(笑)。バカになってるんじゃないかなって思うくらい。きっと考えてないわけじゃないけど、考え込まない。
- 森山
- うん。自由人だから。
(ここでスタッフが菓子パンの差し入れをもって到着)
- 矢野
- それって食べるもの? それによって言うこと変わるから(笑)。
- 森山
- 機嫌がだいぶ変わるの(笑)。
- 矢野
- バナナしか食べてなかったから、ここまではバナナ一本分の話。
- 森山
- (笑)
- 矢野
- でも一応は、先ほど言ったようにゲストをお迎えしなきゃならない時とか、なんにしても新しいことをやる時っていうのはどうしても緊張するわよね。
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- 今回の「やもり」も新しいプロジェクトですが。やはり緊張されますか?
- 矢野
- 私は…あまり緊張ないかな(笑)。緊張してないわけじゃないんだけど。
- 森山
- 二人でいることでそれがハーフポーションですむから。
(真面目にお話される森山さんの横で、早速菓子パンを物色される矢野さん。絶妙なコンビネーションで進みます)
- 森山
- なんかこう、一人で背負って立たなくていいってこと。ハーフ。うーん私なんか緊張は半分以下かな。(矢野さんが)いればやってくれるっていう、進んでいくっていう感じが。一人の時はね、ひとりで全部自分で仕切っていかないといけないから。
- 矢野
- 看板がやっぱり「矢野顕子」、「森山良子」っていう一枚看板を背負って人生やっているんで。それがどちらも出ているようで出ていない「やもり」っていう看板に隠れられる安心感はありますね。
- 森山
- そういうことね(笑)。
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- なるほど。ではお二人なら「始まれば終わる」の後にどんな言葉をつけますか?
- 森山
- 始まれば終わるから、精一杯の自分の力をきちっと的確に一瞬いっしゅんを、美しすぎるんだけどある意味積み重ねていくことでいい終わりがくるだろうって感じでしょうか。
- 矢野
- すごい。私なんか全然別のことを考えてました(笑)。
- 森山
- えっ何を考えてたの?
- 矢野
- 始まれば終わる。終わったら飲もうって(笑)。
(一同爆笑)
- 森山
- その後のことね。これすごくいいらしいですね、終わった後のことをイメージするのって(笑)。
- 矢野
- あらやっぱりそうなんだ(笑)。
- やもり
スタッフ
- いやぁ〜こないだはそう思わなかったですよ(笑)。
- 森山
- あらそう?
- やもり
スタッフ
- 横浜の県立音楽堂で矢野さんはコンサートがあったんです。中華街に行きたいんだけどもコンサートの終わる時間がギリギリだったんで。でもなんとか行けるかもってお伝えしたら、「わかった!」って。みんなはこれで矢野さんやる気が出たのかなって思ったら「よし、曲数減らそう!」って(笑)。
(一同爆笑)
- 矢野
- テンポ上げるぞってね(笑)。
- 森山
- でも私もそれはすごくよくわかる。必ず事前に予約して「何時には行きますから」って。
- 矢野
- ほらぁみなさん同じですよね。
- 森山
- 一番遅くまで開いているお店があるんでそこを必ず。
- 矢野
- すごい!
- 森山
- みんなに声をかけて。終わったらありますからって。でもそこも込みよね。始まったら終わるの終わるっていうのは、そこも込みの終わるよね(笑)。
- 矢野
- はい。
- やもり
- 終わったら飲める。
- 森山
- 終わった後の自分をイメージできるかできないかっていうのは。私のボーカルの先生が、「どうも出だしが上手くいかないんです」って言うと、「良子ちゃんワンフレーズの先のこと終わったつもりで歌い始めなさい」って。
- 矢野
- うんうん。
- 森山
- このことばっかりに一生懸命になっているから後まで息がつながらなかったりね。でもこの曲は歌い終えたって気持ちで歌い始めればもっとゆったりとした気持ちになれるって。歌い終えてないんだったら、じゃぁ4小節8小節、そこまで行きましたって気持ちで歌い始めれば、歌い始めにドギマギすることはないって話をされて。なるほどぉって。なんかさ洗剤とかを売っている方の社員教育って、「もう売れました!」っていうのが社員教育なんですってね。
- 矢野
- へぇ〜。
- 森山
- 売りたいっていうじゃなくて、もうこうこうこれだけ売れちゃいましたってところから発想する教育なんですって。話がそれちゃったけど。
- 矢野
- 先日のバンクーバーオリンピックを見ていたらアメリカ人の女の子。とんでもない傾斜のところをスキーで降りてくるレースで優勝した子がいて。しかもその前にものすごい大怪我とかしているのに。レースの前にイメージトレーニングをしているじゃない。あの中にそこで転んだみたいなことは絶対に排除されているわけでしょ。
- 森山
- うんうん。
- 矢野
- それを考えると、私たちがレコーディングしている時だっていろいろ考えて工夫しながら歌い終えて、あっこれはOKテイクだなって時に、あともう一本歌いましょうっていった時は絶対リラックスしているもんね。
- 森山
- そうよね。そこはリラックスして歌おうと思ってやっているのに、もう録れちゃった後だからもっとリラックスしているのよね。毎回ああいう風にできたらいいのにね。
- 矢野
- ねぇ。でも自分がシャカリキになってやっている時というのは、他の人が聴いても大変な思いしてやっているんだろうなって聞こえちゃうのかもしれないなって。
- 森山
- だからリハーサルが一番良いのよね私たち(笑)。
- 矢野
- そうね(笑)。
第二回につづく